新EP『名残惜しいくらいが別れ時』インタビュー|ネガティブからの脱却
そのうち移行します
▶︎ ヱスケー|note
インタビュアー
・溜 政和
(旅古書シャンティブックス店主)
https://twitter.com/shantii_books
共通の友人、シロシビンズの紹介で知り合い
それ以来音楽やアニメの話をしに度々訪れては迷惑をかけている
『気持ちをちぎって捨てたくなる』(CD)の販売を委託している
https://www.amazon.co.jp/dp/B07GVSBQW1/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_YN1RVQRJGVPNBV6ACDH9
■EP trailer+interview (音声版)
Bandcamp
▶ https://kikuchisk.bandcamp.com/album/trailer-interview-ep
『名残惜しいくらいが別れ時』
《¥500/5曲/13分/Bandcamp》
何処にも行かない (Rerecording)
雨宿り feat. Chan diz & メガネ
0じゃない (EPversion)
枯渇 feat. MGM
名残惜しいくらいが別れ時
All produced by ヱスケー
2022年2月27日(日)配信予定⇩
https://kikuchisk.bandcamp.com/
以下書き起こし(加筆修正)
―ヱスケー君が新しいEPを出すということで今回のインタビューをやろうと思います。
タイトルが『名残惜しいくらいが別れ時』
いつもヱスケー君の作品のタイトルってこういう…
こういうタイトルですよね
―今回のタイトルに何か意味は込められてる?
そのとき気に入っている言葉をタイトルにするんですけど、その時期に作った曲が自然とそのタイトルに合ってくる
Twitterを辞めたり、まあまあ長く乗っていた車を買い替えたりとか、そういうタイミングがあってこのタイトルが浮かんだ。
ダラダラと続けてグダグダになる前にスパッと解散できる人が好き。
EPというサイズもそんなイメージ
で、タイトルはちょっとダサい方がいいなと思っていて…
―いつも言うよね
格好つけてるような、ダサいような、これならギリいいか…と思えるような
少し恥ずかしさもあるタイトル。それが自分らしいのかなと
ちょっと長めの文章の方が覚えやすいっていうのがあって、英単語1つとかだと誰の音源かわからなくなっちゃうけど、
これは俺のだってわかるじゃないですか
―確かに。それは間違いないよね
そもそもこのEPを作り出したのっていつ頃からなの?
YouTubeに『何処にも行かない』をあげてから、"できそうだな”と思った。
それまでは「もうできない」って勢いで何も無くなっていったので…
だからこのEPのテーマは”枯渇”
何もない中で何を生み出していくかってことなんですよね。
―前に出したアルバムは一昨年の12月31日、
年末ギリギリになって『思い出したように寂しくなる』がリリースされたよね。
そこから新しいものが出ないっていう状況は続いていた
それもあってスタジオライブをやったり、
いつもと違うことをした。
今の生活(コロナ禍)に関することは前のアルバムで書き尽くしたからもう書きようがないんですよね。
今まで生活をテーマにしてきたし、
人と会ったり何処かに行ったりとか、そういう刺激が曲になっていたから同じことを繰り返す生活の中で「何を生み出すんだ?」となってしまった。
それもあって停滞していたんですよね
― 少なくとも2021年の前半は「これからどうしていけばいいのかわからない」という状況が続いていた
でも無理して作るのは違うなと
自然に湧き出てきたものがいいなと思っていた。それがなかなか難しい
今までは色々活発だったから曲を作る為のゲージがすぐに溜まったんですけど、
そのゲージを溜める為に色んな物を掻き集めなければならなかった。
それで5ヶ月くらい掛かってるんですよね
―今回は5曲のEPで12~13分。
かなりコンパクトに収められてる作品だよね
僕は結構前から聞かせてもらっていて5曲をループしていたんだけど本当にね、
ヱスケー君の作品に見られる「ぬるっと」
5曲が終わって、またループが訪れても違和感がないというか、聴き続けても嫌にならない曲に仕上がっていると思うんだよね。
曲について
1曲目『何処にも行かない』
―捻り出したように作り出したと思うけど、
1stアルバム、2018年に出した作品の延長線上にある作品だよね
そうですね
状況的に実際に何処にも行けないっていうのと自分自身も何処にも行かない、
居なくならないというのを書きたかった。
今まで、最初のアルバムなんかは特に卑屈な面、ネガティブな面が濃かったと思うんです。
そこから変わって行きたいと思っていた。
単純に「前向きな人間っていいな」っていう
前は現実的ではない気がしてポジティブな人間を受け入れられなかった。
最近は素直に「そういう人間っていいよね」って思えるようになってきて
―心の変化みたいなものがあるの?
変わって行きたいと思っていたのが自然に近付いてきたというか
今までの音源は「わかってくれよ」とか、
共感を求めているところがあったんですけど
それよりも聞いている人がどう思うか、
何を与えられるかを考え始めた。
―2018年に1stアルバム出してそれから少しずつ歳も重ねて心境の変化は起こってきているということだよね。
良い方向に変化している感じはする?
自分では良いんじゃないかなと思うんですけど、ウジウジしているものとか鬱屈としたものとか、そういうものを好きな人って一定数居るじゃないですか。
でもそういうものばかり作っていると
そういう人ばかり呼び寄せてしまうし、
自分自身もそうなっていく
逆に良い影響、と言えば偉そうだけど、
「自分自身はこうなっていきたい」とか
「こうしていくんだ」
という宣言になってきたんですよね
―自分の決意をリスナーに向けている部分はある?
今は聞いてくれる人がいるという確信があるので、その人達がどう思うかは考えて作っているかもしれない
―少しずつ心境の変化が…
単純に歳取って少し大人になってるんでしょうね、最初の頃よりは。
2曲目『雨宿り』
― KHBのdizさんとメガネさんがフィーチャリングしているよね
この曲に加わって貰おうというのはあった?
これに関しては自然と
「そろそろ何かやろうか」という話になり
じゃあビートできたら送るわ~って
で、返ってきたテーマがこういう感じだった
でもやっぱりdizにしろメガネにしろそんなに曲を作る感じではないんですよね。
自分と近いところがあって、曲を量産できるような心境でも状況でもないので集まってやるのもいいんじゃないの?って
―dizさんも個性的な声だし、リリックもある意味深いしさ、メガネさんも「おっ」って思うような歌詞があるし良い感じになっているよねこの曲は
この人達と曲を作る時は大体1日でできる。ビートを送った数時間後には返ってくるし、
やっぱりやりやすい。
でも他の人とやるときにもこれが基準になってしまうので「やっぱり時間かかるよね~」となる。麻痺してると思う
シロシビンズにしても凄くレスポンスが早いし周りの人が優秀過ぎるんですよね
―今後KHBでやる予定はある?
タイミングが合うときっていうのがあるんですよね。自然とみんなが作ろうってなってるときに作る
ー2人とは距離が離れているよね。
このご時世距離のギャップっていうのはないと言われるけれど、でも実際は距離のギャップってあるじゃない?
生活だったりで合わなくなったりすることもあるけど、
二人とは長くやってるわけだもんね
ツイッターをやってた頃、本当にやり始めたくらいからだから10年近くですね。
―長いね
コロナ前は1年に2,3回くらい会っていたけどここ何年かは会ってないなあ。
でも会ってなくても特に変わりはないですね
―2曲目もめちゃくちゃかっこいいよね。すごい聞いたよ
3曲目『0じゃない』
ーこれはどういう気持ちで作ったの?
0じゃないって何かな?って思った
リリックを見るとヱスケー君の生活の中にいるような、寂しい気持ちだったりとか…
あとこれはタイトルにつながると思うけど、0じゃないというのは自分の作品を見てくれているリスナーのことだったり、
そういう人への感謝の気持ちだったりとか、
もっと内にあるようなものが入っているのかなという感じがした。
何もないなって思ったけど
そうでもないなって気付いたっていう曲
―自分の立ち位置に立ち戻って自分を見てみたら「全然0じゃなかったな」っていう感覚?
この生活は何もないし、
曲も全然作れてないし、
大して聞いてもらえてるわけでもないし…
でも0じゃないよなって気付いた。
自暴自棄気味になって
「どうせ俺なんて誰も興味ないんだ…」
とか言う人いるじゃないですか。
大っ嫌いなんですよね
―そうなんだ大っ嫌いなんだ笑
そういうの格好悪いじゃないですか。
それで一人でも見ている人がいたら
「じゃあ自分は何なの?」と思わせてしまう
その気持ちを無視しちゃいけない。
―そうだね。それもまた年齢が上がってきたことで自分の立ち位置を見ることができるようになって…
冷静に自分のことを見ると0じゃないなって思ったってことですね
―これはヱスケー君がちゃんと「今の自分を見た結果」の曲なんだなと思ったよ
4曲目『枯渇』
―4曲目なんて思いっきりタイトルに『枯渇』って書いてあるんだけどさ
これがテーマですからね。
―これが2021年のヱスケーだった?
そうですね。
このビートは前のアルバムを作っていたときに既に出来ていて、最初の1,2行だけ書けていたんだけど、それから全く進まなくて
このテーマだとMGMに合うなーと気付いてそこから進んだ。
ちょっと懐かしい王道な感じを作りたくて
サビもわかりやすくした。ベタな感じに
―確かに懐かしいし、MGMくんのラップも味がある。というか声がめちゃくちゃいいよね
リリックをよく聞くとダサいんだけど、すごいグッとくるようなリリックを書いてるじゃない?
なんかポジティブなパワーを持ってるんですよね。だからそういう曲にしたかった
―今回僕の中では最初にワッと思った曲
ヱスケー君とMGM君のフィット感も良くて「バッ」と入ってくる曲だったよね
この曲でこのテーマならMGMだろって曲ですね。それと掛け合いがやりたくて…
―確かに掛け合いだね。ちょっと古典的な
これって最新のラップの人だと無理なんですよ。時が止まっているかのようなラップをしているMGMだからいいんですよ
―そうだね。
現行のヒップホップには全くない雰囲気みたいなものはあるよね
往年の日本語ラップにはちょっとダサいんじゃないかな?みたいな雰囲気を醸し出す感じがあったと思う
今はそれとは離れてきているけど、でもそういうのがこの曲には残っていて回帰するような気持ちを感じるよね。
現行の曲を聴いている人達もこういうのを立ち戻って聞いて欲しいよね
「in the place to bee」っていま誰も言わないですよね
―言わない言わない笑
言わないんだけどいいよね。
この5曲の中では目玉になったんじゃないかなと僕の中では思うし、
正にヱスケー君が言ったように今回のEPのテーマ。本当に面白いものになってるよね
5曲目はタイトル曲
『名残惜しいくらいが別れ時』
―なんで5曲目なの?って思ったのよ。
タイトル曲、これで(ヱスケーの活動が)最後みたいじゃない
このEPはこれで終わりだけど、そこに名残惜しさを感じて貰えたら嬉しいなと
最初から締めの曲にしようと思って作った曲です。
歌い出しの「Netflixを見たって退屈」を言いたくて。CMであったじゃないですか「退屈は犯罪です」ってやつ
あれめちゃくちゃムカついたんですよね
そんなものを見たくらいじゃ退屈は埋まらない。これを書き出したときは丁度そのCMがやっていたんです。
―本当にトラックもそうだけど、正に終わりに向かうような曲だったよね。
でもまあ最初にNetflixにひとこと言ってやりたかったという…
これはもうリリックを見たらわかるけど、
今の情勢というかそういうものへのヱスケー君の思っていることが書かれてる。
ちょっと排他的な、そんな感じがしない?
何書いてましたっけ?笑
―1000年後に滅ぶ国に生きてるとか…
あ~書きました
暇過ぎて「今後日本の人口ってどうなっていくんだ?」と思って調べて、
1000年後にはほぼ0になるみたいなのを見て、それが頭に残っていた。
―僕の中ではもっと、こう…今の国とかじゃないけど、そういうものを悲観的に捉えてる部分だったりとか、ヱスケー君なりの心境が色濃く出てる感じがした
最後に
―結構長くなったと思うけど最後に聞いていこうかな
今回のEP、最後にアルバムが出てから一年とちょっと…いつもより時間がかかっていると思うんだよね。
それこそ枯渇している生活の中でつまらなかったりだとか、なかなか上手く作品作りが進まなかったところもあったと思う。
そんな中で今回EPが久々に出来上がった心境はどうですか?
ようやくできたかという感じ。今のところ次の曲が出来るイメージは全くない!
―あれ、そうなんだ笑
でも4曲目、枯渇の歌詞でも書いてたけど、「もう無理だな」っていうのを何回も経験してるから、腐らずにやっていたらその内に何かできるだろうなという予感もある。
まあ焦らずにやっていこうかなと
前のアルバムを作っていたときは毎月何曲も作っていたけど、もうそういう状況でもないというか…
自分のペースでやっていった方がいいなって感じですね。無理すると疲れちゃうので
2022年1月30日シャンティブックスにて収録